なぜ、多くの育成はコストで終わってしまうのか?
前提として、社員育成を「意味がないもの」「純粋に、ただただコストである」と考えている方は少ないと考えています。
なぜなら、企業であれ教育機関であれ、スポーツや勉学などの習い事であれ、誰もが何かしらの形で育成に触れたことはあり、それによって何かしらの財産を得て、成長してきているからです。
しかし、これがビジネスにおける育成となると、コストと捉えるようになってしまう部分が一定ある、ということが起きています。
様々な理由があると思いますが、シンプルに整理すると私は以下の要素が大きいのではないかと考えています。
1)個人の「やりたい」から生まれるものではないから
スポーツや勉学、資格取得などから得られる学びは、基本的には個々人の「やりたい」「身につけたい」という意欲からスタートします。
私は高校までサッカーを、卒業後は音楽を、そして今は趣味でゴルフをしていたりしますが、どれも最初は「やりたい」「やってみたい」から始まりました。
当然最初はうまくいきませんし、知らないことだらけでしたが、やっていく中でひとつひとつ課題をクリアしていき、振り返ればスキルや知識が身についているという経験があります。
このような場合、未知のところに踏み出している個人の欲求が成長意欲になり、一歩一歩を着実に踏みしめて進むので、何より自分自身の実感値が強くなります。そうすると個人は「次はこれを」となっていくので、成長の階段を自ら登っていきます。
その際に、教育者や先輩などから助言があれば、成否はあれど「停滞」はしづらいです。それによって、個人も教育者もその人の成長を感じやすくなり、コスト感覚ではなく「投資して得られたもの」と捉えやすくなるのだと、個人的には考えています。
そもそも、この場合「成長を得たい側が能動的にコストを払う」という形式なので、教える側はコストというよりも収益を得る受益者であるため、この構図はより強固になり、コスト感覚が全体的にはならされているのだと思います。
しかしビジネスの場合、多くは「企業から求められるから成長しなくてはならない」という構図だと思います。納得感や理解度は一旦別として、構図としてはそれが一般的である認識です。
つまり、「ない」とは言いませんが、個人の「やりたい」がスタートになることは少なく、求められて成長するという構図になりやすいのだと考えています。
2)ビジネスは「これが正解」という答えが導きづらいから
スポーツや芸術も当てはまる部分が大きいですが、ビジネスにおいてはより顕著だなと私は感じています。
極端なことを言えば、Aさんには理解してもらえなかった話がBさんには強く共感を得られた、ということがビジネスではよく起きます。Googleや食べログ、Amazonなど様々な「レビュー」が世の中に溢れていますが、★5もあれば★1もある、というのがわかりやすい例かなと。
誰かにとって価値のあることは、他の誰かにとって価値がないかもしれない、ということがビジネスではよく起きるので、端的に言えば「正解がない」ということになります。
やってみなきゃわからないと言うと強引かもしれませんが、事実としてそれがあり得る以上、ビジネスにおいて「これを教えれば大丈夫」ということがないため、教育者側にノウハウが溜まりづらくなります。
教わる側も「何をやってもうまくいかない」が起きやすくなるため、101回目で成功するかもしれなくても100回は失敗するということが発生し、教育による成長実感を受けづらくなります。
また、先程の「個人のやりたい」とは違い、この場合「成長をしてほしい側がコストを払う」という形式になるため、教える側は成果が出ないと「意味がなかった」と捉えやすくなり、教わる側も「こんなことやっても効果はないだろう」という姿勢になりやすくなります。
もちろん、ビジネスにおけるすべての教育がこれに当てはまるとは言えませんが、少なくともそういった構図は「起きやすい」のではないか、と感じています。
育成が「投資」に変わる分岐点
では、この「起きやすい」構造的な問題を乗り越え、育成を単なるコストで終わらせず、未来への「投資」へと転換させるためには、何が必要なのでしょうか。
現時点で「これが唯一の正解だ」というのは正直ありません。前述した通り、ビジネスにおいて「これが正解」が起きづらいのは、私やGrowillにとっても当てはまるためです。
ですが、少なくとも私がこれまで経験してきた中で重要な要素であると感じたのは、
「企業の目標と個人の成長、そこに至る成長の道筋(育成)を、一本の線でつなぐこと」
です。先ほどの例で言えば、「個人のやりたい」と「会社のやってほしい」がバラバラになっている状態が問題なのです。
例えば「売上を上げてください」という漠然とした号令だけでは、社員は何をどうしたら達成するかがわかりません。例外はあるかもしれませんが、基本的に自分の持つ知見や企業が持つ商材やノウハウを使って、できることをすべて取り組んでいるはずだからです。
それなのに「もっと上を目指してください」と言われても、それはどうやればいいのだろう?となってしまいます。
となると、何か新しい知識やスキルを身につけて、一つ上のレベルにいかなければならないということになるのですが、何をどう学べばいいか分からず、成果創出の可能性や成長実感を得られません。なんとか目標が達成できれば一安心かもしれませんが、その達成には再現性がない場合もあります。
企業としてインプットするべきことがあったとして、それが個人のやりたい・やるべきという認識に紐づいていなかったり、企業目標が個人レベルの指標に連動した形で整理され、それに向かった育成になっていなければ、成長実感も得づらくなります。
結果として、企業が提供する育成は「やらされ仕事」になりやすく、効果が見えないコストになってしまいます。
裏を返せば、「企業が実現したいこと」と「個人が実現したい・するべきもの」を連動させ、そこに至るための要件を定義し、要件をクリアするための育成を作り上げる。
こういった企業と個人の連動性を丁寧に描くことで、個人の成長が個人の成果になり、個人の成果が集約されて企業の成果になり、個人の成長が企業の成長になると考えています。
つまり、育成の効果を正しく得るためには、正しい構造で個人の成長をデザインすることが必要で、それができるか否かで「コスト」なのか「投資」なのかが分岐する、ということになります。
1,000万円かけた育成で900万のリターンしかなければ「コスト」です。1,000万円かけた育成で1,500万円のリターンが得られれば「投資」になります。
投資へと進化させるためには、進化させるための手段やノウハウだけでなく、企業として意思を持って取り組むことが必要になるとも言えるのだろうと考えています。
Growillが描く「新しい成長の仕組み」とは
この「企業と個人の連動性」を丁寧に描き、育成を投資へと進化させる。それこそが、私たちGrowillがお客様と共に創り上げたい「人が育ち続ける仕組み」です。
私たちは研修そのものを売りたいのではありません。私たちが経験してきたり学んできたことを私たちの目線でお伝えしても、各企業の実態に即していなければ、絵に描いた餅になってしまいます。繰り返しですが、ビジネスにおける正解は導きづらいのですから、私たちの経験が必ずしも各企業の正解になるわけではないと考えています。
もちろん、「より良いであろう」と思えるものをお伝えすることは可能です。少なくとも私たちが成果を出してきたことが、もしかしたら各企業にとっても有益かもしれないからです。
ただ、仮にそれがうまくハマったとしても、それは「私たちが提供する」という構図に留まってしまい、企業の中の資産になりません。その企業にとって効果があったことは、その企業が自分たちで繰り返し実現できるようにならないと、企業の基礎代謝が上がっていかないからです。身につけた人が、次の新人や後輩に伝えていき、新しい活躍をどんどん生んでいく。
こういった成長の複利的なサイクルは、企業自身が実行できるように実装しないといけないと考えています。
ですからGrowillは研修を提供するだけではなく、企業の中に「事業成果に直結する育成の仕組みを実装する」ことをご提案しています。
では、その仕組みはどのようなステップで構築されるのか。私たちがお客様と最初に行うのは、事業のゴールから逆算して、育成プランを設計していくことです。

事業目標の明確化
まず、企業や事業がいつまでにどこを目指すのか、何を達成したいのか、ゴールを明確にします。事業計画に置かれたものでもよいですし、意欲的な目標でも構いません。
実現性の可否は認識合わせやレビューをするべきではありますが、何を実現したいかを明確にすることが重要です。
現場の成果目標へ落とし込み
例えば「営業利益120%」であれば、売上の増加を狙うのかコストの圧縮を狙うのかで設定すべき成果目標が変わります。更に、売上増加においても「量」を増やすのか「質」を上げるのかでも変わってきます。
ここを丁寧に分解し、「成約率を20%上げる」「単価を30%向上する」といった、現場がトラッキングしやすい具体的なKPIに落とし込むことが重要です。
必要な人材像の定義
ここまでは事業運営において一定実行されていることかもしれませんが、前述の「これをやってください」という漠然とした指示にせず、その目標達成の蓋然性を引き上げるために、個人の成長を絡めることが重要です。
そこで、「そのKPIを達成できるのは、どんなスキルや知識を持った人物なのか」を定義します。この人材要件を定義しないまま「営業力を上げる」「広告運用能力を上げる」「コンテンツ制作能力を上げる」とだけ整理しても、個人の成長と成果達成の要件が紐づきません。
ここが一番と言っても過言ではないほど、重要なポイントになります。
なぜなら、この人物像を設定していることで「満たしている部分」と「満たしていない部分」が明らかになるためです。
人材像を満たすための育成設計
上記で定義した人物像は、絵に描いた餅で終わってはいけません。そういう人がいたら助かるから、あとは個人に任せますでは、偶発的な成長に期待する以外の打ち手がなく、企業として受動的になってしまいます。
人物像を満たすためには、どんな知識やスキルが必要で、それはどのような順番でどんな方法で身につけるのか。
ボールを投げることができない人に、いきなりスライダーは投げられないのと同じで、まずはボールを投げてみるという順番も重要です。
更に、ボールを投げる際の体の動きを頭で理解することも、実際に体を動かしてみることも重要です。
そして、「ボールを投げてみたけど、思ったように前に飛ばない」といった、前回の記事で書いた「意図的な失敗」なども含めて、人の成長をデザインすることがここでは大切なポイントになってきます。
育成の実行・管理・振り返り
ここまで来て初めて、育成の実行状況はどうなのか、という管理体制の話になってきます。研修やその受講状況を管理するのは、ここまでの丁寧な設計があってこそ、その価値を発揮します。うまく研修や成長支援が回っていないなら、その原因を特定し、改善策を打つという対応も必要になってくるでしょう。
現場の社員は日々、通常業務に追われています。設計すれば自律的に回るのが理想ですが、現実問題そううまくは回らないことが多いですので、しっかり状況把握に努め、実行強度を高めていく対応が重要です。
事業成果への貢献・振り返り
ここまでの取り組みによって、最初に設定した事業目標にはどう跳ねているのか。現場の指標は改善されているのか。現場の指標が改善されていたら、足りない差分はなんなのか。あらゆる観点で振り返り、事業成果を達成に近づける改善まで実施して、初めて「育成をやりきった」と言えるのだと考えています。
反対に言えば、ここまでやらないと育成と事業成果が紐づかず、「企業として投資したことへのリターン」が不明確になり、結局は育成がコストで終わってしまうのです。
もちろん、すべての指標を達成していることが望ましいですが、仮に事業成果が未達でも現場指標が改善しているのであれば、時間軸や実行強度などあらゆる観点から振り返りをし、「投資した意味はあったが事業に跳ね返りきっていないので、差分をどう埋めるか」の議論ができます。
次に繋げるための振り返りをすることで、育成の成果と達成度を測ることができ、次のアクションを決めやすくなっていきます。
おわりに
これが、私たちが考える育成を「コスト」から「投資」へと転換させるために必要な「成長のデザイン」です。
企業の目標から逆算し、個人の成長と一本の線でつなぐ。そして、その成果をきちんと事業貢献にまで接続し、振り返りを行う。
このサイクルを回し続けることで、企業には「人が育ち続ける文化」と「それに必要なプログラム」、そして「成果を生んだコンテンツ」が資産として蓄積されていきます。もしこれを企業が自社で設計せずに研修だけを実施した場合、資産と呼べるかは難しいかもしれません。
だからこそGrowillでは「研修」ではなく「企業への実装」を何よりも大事にしていきたいと考えています。
- 8月5日
Growill合同会社の代表、平山公規(ひらやま きみのり)です。
フリー株式会社で約10年、事業や人の育成に携わってきて、なぜGrowillを創ったのか。
その原点や想いを書き起こしてみました。
自己紹介
1988年、東京都品川区生まれ。小学生から静岡県の伊東市に移り住み、高校卒業までサッカーを続けていました。高校生のとき、ある出来事をきっかけに音楽の力に惹かれるようになり、高校卒業後は大学進学と悩んだ末、上京してフリーターをしながら音楽活動に取り組み、担当のボーカルと作詞作曲編曲、レコーディングと編集を学びました。
つまり、学歴も職歴もなく、やりたいことに突っ走ってきた青年期を過ごしていたわけですが、正直「多少の収入はあるけれど、このまま音楽が成功するかわからない状態で30歳を迎えるのは怖いな…」とも感じはじめ、27歳でフリー株式会社にアルバイトで入社しました。
その半年後に社員登用していただき、たくさんの優秀な人たちに囲まれて、色々な経験をさせてもらい、高卒フリーターだった僕が最終的に90人規模の事業をマネジメントさせていただくこともできました。
Growill創業を機にフリー株式会社は卒業しましたが、人生変えてくれる会社に出会えたことは、僕にとって本当に幸せなことでした。
そんな僕が、なぜGrowillをはじめたのか
育成の課題
フリー株式会社では、PMM(Product Marketing Manager)やセールスエンジニアなどのチーム立ち上げ等も経験しましたが、マネジメントや新卒研修、SET(Sales Enablement Team)など、育成の領域に携わる機会が多くありました。
OJTや座学形式はもちろんあるのですが、何より「どれだけ人の成長をデザインできるか」を意識しながら取り組んできたと思っています。
スキルや知識は可能な限り細分化・言語化し、抽象〜具体まで網羅したうえで人の現状把握と、必要なステップを提示しています。
例えば営業の提案力は「問題発見能力」「課題整理能力」「実行推進能力」と3つの能力に大きく分類したうえで、更に中分類レベルまで分解し、そこに詳細項目として必要な知識やスキルを羅列するといった整理をする
これによって「問題発見」が苦手だが「課題整理」はできる、という現状がわかってくれば、何を身につければ提案ステップが綺麗に流れ始めるか、本人と育成側で納得感を持って進めることができます。
また、反対に「どこで躓くか」「どこで失敗しやすいか」のポイントもわかってくるので、あえて座学では「躓く手前」までしかインプットせず、実際にうまくいかないことが起きてから次のステップに進む、というデザインもできるようになります。
このデザインが非常に重要で、学びに連動性やストーリーが生まれます。単発の座学や属人化したOJTでは実現しづらいですし、独学も言語化やインプットの順番が人や状況によって変わってしまうため、点と点が結びつかないということが起きやすくなります。
また、多くの人は「失敗が起きないように」取り組みますが、失敗は実感値を得る貴重な経験、機会です。
もちろんお客様に迷惑をかけるような失敗や、本人の尊厳が傷つくような失敗は避けるべきですが、この「失敗」という機会を意図的に提供できるかは、重要な要素であると実感しています。
例えば「論理的思考力を身につけたほうがいい」と感じてロジカルシンキングを学んだものの、どういう時に使えばいいかわからない、使ってみてもうまくいかないということが起き、成長が線になって実現しない。
ただし、その「使い方の失敗」を経験することで「こういうケースでは使うべきではない」という学びにもなる。
フリー株式会社に転職してきた方の初期研修をしたり、新卒研修をしていると、学びが線になっていないことで本当は知っている知識をうまく使えなかったり、地力として身についている思考力をうまく活用できなかったりという場面に多く遭遇しました。
こういった経験により、「成長のデザイン」が非常に重要だと感じるようになると同時に、それを社会や他の企業に提供できたら価値があるのではないか、と考えるようになりました。
社会に課題はあるか
人口減少が進む中で、「人が足りない」という声を聞くことが多くなりました。その打ち手のひとつとしてDX推進があり、多くの企業が業務効率化を進めようとしています。私が所属していたフリー株式会社も、まさにそういった取り組みを推進する企業で、数多くのプロダクトを提供しています。
それらのプロダクトの提案に同席したり、カスタマーサクセスの文脈などでお客様の声を聞くことが度々あったのですが、「使える人がいない」「業務効率化に向けた業務組み直しができない」といったことを耳にしました。
つまり、世の中にある素晴らしい製品を「使う人」が育っていないという課題があるのです。
そしてこれはDXなどの業務効率化以外にも、あらゆる面で結局は「人」の能力や知識が求められていると実感しました。
メンバー育成能力がある「マネージャーはいるか」
新規事業を考え、実行できる「人はいるか」
世の中の進化をキャッチして社内に反映できる「人はいるか」
社長の考えを言語化して戦略に落とし込める「人はいるか」
人の絶対数が減っている世の中において、これらを採用で解消することはどんどん難しくなります。一方で、システムやツールの導入には前述の課題がつきまといますし、BPOなどのアウトソーシングも重要な手段ではあるものの「業務の受け手」側には人がいます。
正直、「社内育成」と言うとすでに数多くの企業が参画している領域ですが、世の中に課題はたくさん残っている、というのが現実です。
つまり「育成」というものの在り方や認識自体をアップデートして、全く新しいものに作り変えていかないと、この課題は社会からなくならないのではにないか、と考えました。
世界を変えるのはテクノロジーでも、世界を創るのは人だと信じ続ける
Growillの大事にしたい根源的な価値観として、上記のようなことを心から思っています。テクノロジーは世界を変革する力を持っていますが、世界そのものを創る主体は人間です。
昨今、凄まじいスピードで進化しているAIなどもそうですが、技術の重要性を認めた上で、人間の創造性と主体性を最重要視する価値観を持ち続けることを大事にしたいと思っています。
結局のところ、あらゆるツールも育成そのものも、目的ではなく手段です。Growillでやりたいのは、単なる育成の支援ではありません。人が変わり、動けるようになり、それが連鎖することで社会そのものが少しずつ変わっていく。
私はそれを「社会の基礎代謝を上げる」と呼んでいます。
そこまでやり切らないと、育成はコストという世界が変えられないからです。Growillは、目の前の人が変わる仕組みをつくりながら、その先にある社会の変化まで見据えて事業を作っていきたいと考えています。

まとめ
Growillで何をやっていきたいのかを簡単にご紹介させていただきました。
今後も、事業の考えや想い、どのようなことにチャレンジしていくのかを定期的に発信していきたいと思います。
また、Growillでは初期ユーザー様を募集しております。
「社会の基礎代謝を上げる」
そんな挑戦に少しでも共感してくださった方、なにか一緒に取り組んでみたいと思っていただいた企業様は、お気軽にご連絡ください。

